図工の時間に、四人のグループでビー玉コースターを作ることになった。たかしは、さとる、やす子、よし美とのグループだ。「さとるくん、ぼくたち二人いれば、クラスで一番かっこいいのができるぞ。」「そうだね。みんなをびっくりさせたいね。」「ちょっと、わたしたちを忘れないで。よし美とわたしがいれば、ばっちりよ。」グループで、さっそく作り始めた。「たかしくん、コースのここは、わざと、がたがた道にしたほうがいいよね。」「さとる、ナイスアイディア。それでいこう。ぼくは、このカーブを作るよ。」よし美は、「ここは、ビー玉がストンと落ちるようにするわ。」やす子は、「こっちは、ぐるぐる回るようにする。」と、みんなやる気満々で、それぞれの考えや、気付いたことから、さまざまな工夫をして作っていった。すると、たかしがとつぜん、コースターをささえる柱を見つめながら、「これ、コースのじゃまだよ。」と言った。その柱は、さとるが作ったところだ。(ぐらぐらしていたから、じょうぶにしようと思って柱をふやしたのに。……)さとるは、柱を作った理由を口に出そうとしたが言えなかった。「もうちょっと考えて作ってよ。お願い。」「ごめん、ごめん、ここにコースを作るって思わなかったから。この柱は取るね。」さとるは、いつも、自分が思っていることを言えなくて、このようになってしまう。悲しそうな顔をして柱を取るところを、やす子とよし美は見ていた。しばらくすると、たかしがまたおこり始めた。「なんで、こんなテープのはり方をするんだよ。じゃまになって、これじゃあ、速く転がらないよ。速く転がって、急カーブになるほうがおもしろいんだからさ。」「そうしたのは、わたしだけど。ゆっくり転がるところがあってもいいじゃない。」やす子は、むっとした顔で答えた。「ちがうね。だいたい、やす子はざつなんだから、あまり手を出さないでほしいな。」「ひどい。」やす子はいすにすわってうつむいてしまった。こみあげてくる感じょうをこらえているようだった。たかしは、ちょっと言いすぎたことに気づいた。しばらくするとチャイムが鳴り、作業が進まないまま三・四時間目の図工の時間が終わってしまった。その日は、それ以こう、四人が言葉をかけ合うことはなかった。下校のと中、たかしは、図工の時間のことを思い出して、「どうしよう。」と、つぶやいた。東京都教育委員会『小学校版 東京都道徳教育教材集』ぼくらのビー玉コースター1919第3部第3部いじめをしない、させない、許さないための意識の醸成互いの個性の理解規範意識の醸成保護者プログラム望ましい人間関係の構築いじめ問題への対応事例教員研修プログラム地域プログラムいじめをしない、させない、許さないための意識の醸成 (1) 自己存在感の感受 相手の立場に立って考えたことを友達に伝え、その考えが認められるようにする。(2) 共感的な人間関係の育成 自分と異なる思いや考えを大切にし、互いに理解しようとする。(3) 自己決定の場の提供 相手の立場に立って、自分の考える場面、考えたことを伝える場を設定する。(4) 安全・安心な風土の醸成 一人一人が考えたことを大切にしながら話合いを進めるよう確認し、児童が安心して学習に取り組むことができるようにする。教材文生徒指導の実践上の視点
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