「今度こそがんばらなくては。」「負けるものか。でも、やっぱり無理かな。」運動会が近付き、今日の体育は学級対こうの「台風の目」という競技の練習です。この競技は、三人一組が横にならんで竹のぼうを持ち、前方に立てられた二つの旗をできるだけ早く回ってくる競争です。二組の教室では、登校してきた人たちが、その話に夢中でした。とも子が教室に入ると、「ひろし君も、ともちゃんもがんばってね。」という声が聞こえてきました。ひろしは、「だって、ぼくたちのグループには、光夫君がいるんだものな。ともちゃん。」と、とも子の方をふり向いて不満そうに言いました。とも子も、「そうねえ。」と、相づちを打ちました。光夫は、何をするにもおそいのですが、運動は特別苦手なのです。この前の練習のときは、光夫と組んでいたとも子たちのグループがおくれたので、二組が負けてしまいました。また、水泳大会のリレーでも光夫がぬかれて負けたことがありました。そのため、負けることが多い二組の人たちは、(今日こそ勝ちたい。)と強く思っていました。みんなは、いつの間にか教室の後ろの方に集まって、どうしたら勝てるか相談を始めました。とも子もひろしも、その仲間に入りました。そのとき、ランドセルを背負った光夫が教室に入ってきました。「おはよう。」みんなは、光夫とあいさつをしながら、おやっと思いました。光夫の指には包帯がまいてあったからです。だれかが、「光夫君、どうしたの。」と聞くと、光夫は、「自転車のそうじをしていて、指をはさんでしまったんだ。」と言いながら、背中のランドセルをおろして、つくえの上に置きました。ひろしは、何を思ったのか、光夫にかけより、「光夫君、今日の体育はどうするんだ。休むのかい。」と聞きました。光夫は、「ぼく、休まないよ。指だから体育はできるよ。ほら。」と、包帯をしている指を顔の辺りまで上げて、ぴくぴく動かして見せました。「そうかい。でも、休んだ方がいいんじゃないか。ともちゃん、どう思う。」とも子は、ひろしの言葉にはっとしました。(そのくらいのけがだったらできるはずだ。光夫さんを休ませるなんて、そんなことはいけない。でも、光夫さんが入ればやっぱり……。)文部科学省「わたしたちの道徳」小学校三・四年同じ仲間だから2121第3部第3部いじめをしない、させない、許さないための意識の醸成互いの個性の理解規範意識の醸成保護者プログラム望ましい人間関係の構築いじめ問題への対応事例教員研修プログラム地域プログラムいじめをしない、させない、許さないための意識の醸成 (1) 自己存在感の感受 誰とでも公平に接することができた経験や、誰に対しても分け隔てなく公平な態度で接するために考えたことを友達に伝え、その考えが認められるようにする。(2) 共感的な人間関係の育成 自分と異なる思いや考えを大切にし、互いに理解しようとする。(3) 自己決定の場の提供 誰に対しても分け隔てなく、公平な態度で接するためにはどのようにしたらよいかを考え、伝える場を設定する。(4) 安全・安心な風土の醸成 一人一人が考えたことを大切にしながら話し合いを進めるよう確認し、児童が安心して学習に取り組むことができるようにする。教材文生徒指導の実践上の視点
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