いじめ総合対策【第3次】下巻_2025_2版
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(あゆみの回想)(九月一日)いよいよ、新しい学校での生活が始まった。父の転勤とはいえ転校は不安だったが、自己しょうかいの後、みんなから拍手をもらい、これから楽しくやっていけそうな気がした。ちょうど、校門から道路に出ようとするとき、同じク「ねえ、あゆみさん。私たちなんだか仲良しになれそうラスのみかさんに声をかけられた。な気がするの。その訳は後でゆっくり話すね。で、早速だけど、これから一緒に遊ばない。時間と場所は後でメールするから、携帯電話のメールアドレス教え て。」「こちらこそ、よろしく。でも、ごめんね。私、携帯電話……、持っていないの。その代わり、うちの家の電と、言って、メモ用紙に家の電話番号を書いてわたした。話番号、教えるから。」みかさんは、メモ用紙を受け取ると、がっかりした様子で、「えっ、携帯持ってないの。ううん、じゃあ、またね。」と、言って、帰ってしまった。私が前にいた学校では、携帯電話は本当に必要なかったし、親からもまだ早いだろうと言われていたので、持っていなかったのだ。(九月二日)新しい学校での二日目。教室に入ると、みんなの視線が何だか自分に向けられていることに気付いた。思い切ってとなりの席の男子に聞いてみた。「ねえ、なんでみんな私の方を見ているんだろう。」「それはね、たぶん、あゆみさんのことが書かれたメールのことだと思うよ。」「今度転校してきたあゆみさんは、前の学校で仲間外れ「えっ、何て書いてあったの。」になっていたので、この学校に転校してきたんだって。 ねえ、それ本当なの。」私の心は、おどろきでいっぱいになった。(どうして私がそうなってしまうの。このままだと本当に仲間外れになってしまう。)私は、どきどきする胸の鼓動を聞きながら、帰りの会「私は、前の学校で仲間外れにされたりしていません。で発言した。みんなと仲良しでした。根も葉もないことをメールで勝手に流されたりして、とても悲しいです。みんながメールのことを本気にしてしまうといやなので、勇気を出して言いました。」帰りのあいさつの後、先生が声をかけてくれたが、わき目もふらず家に帰った。「あゆみに電話よ。」という母の声が聞こえてきたのは夕方四時ごろだった。(九月一日)(みかの回想)二学期が始まった日、転入生をむかえた。転入したあゆみさんは自己しょうかいでこんなことを言っていた。「私は、漫画が好きで、読むのもかくのも両方好きです。特に、最近は漫画をかくことに夢中です。早くみんなと友達になりたいです。よろしくお願いします。」私はびっくりした。それは私の趣味と全く同じだっただった。からだ。私も漫画が大好きで、最近は、かくほうに夢中(よし、あゆみさんと友達になって、漫画をかいて遊ぼう。)まずは、メールアドレスを聞いて、それから遊ぶ時間と場所を決めようと思い、あゆみさんに声をかけた。私は、再びびっくりした。あゆみさんは、携帯電話を持っていなかった。せっかく、漫画の話ができると思っく丸めて、ポケットにつっこんだ。たのに……。家の電話番号が書かれたメモ用紙は、小さもしかして、あゆみさんが携帯電話を持っていないということは、友達と連絡できないということ……。ということは、友達があまりいない子だったのではないか、などと思い、《今度の転校生、携帯持ってないんだって。友達あまりいないみたい。これは推測だけど。》と、メールに書いてクラスの友達に送った。(九月二日)朝、教室に入るとクラスのみんながあゆみさんのことをうわさしている声が耳に入った。授業も終わり、帰りの会で、いきなりあゆみさんが手を挙げて言い出した。それは、前の学校の根も葉もないことをメールで流されたということだった。なんで、そんなことがメールで流れたのだろう。「さっきのあゆみさんの話だけど、どんなことが書いて放課後、クラスの友達に聞いてみた。あったの。」「私のメールには、《今度の転校生は、携帯を持っていないから、仲間外れにされて、この学校に入ってきたらしい。》と、書いてあったよ。」私は、それを聞いて、はっとした。まちがいない。それは、私が書いたメールがいつの間にかこんなことにまうとは……。なっていたのだ。私の思いこみがこんなことになってし頭の中は、あゆみさんのことでいっぱいになった。私が、電話番号の書いてあった紙をきれいにもどし、あゆみさんの家に電話をしたのは夕方だった。文部科学省「私たちの道徳」小学校五・六年知らない間の出来事2323第3部第3部いじめをしない、させない、許さないための意識の醸成互いの個性の理解規範意識の醸成保護者プログラム望ましい人間関係の構築いじめ問題への対応事例教員研修プログラム地域プログラムいじめをしない、させない、許さないための意識の醸成                           (1) 自己存在感の感受 自分にとっての友達の存在や、相手の気持ちを考えて行動するために考えたことを友達に伝え、その考えが認められるようにする。(2) 共感的な人間関係の育成 自分と異なる思いや考えを大切にし、互いに理解しようとする。(3) 自己決定の場の提供 相手の気持ちを考えて行動するためにはどうしたらよいかを考え、伝える場を設定する。(4) 安全・安心な風土の醸成 一人一人が考えたことを大切にしながら話合いを進めるよう確認し、児童が安心して学習に取り組むことができるようにする。教材文生徒指導の実践上の視点

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