いじめ総合対策【第3次】下巻_2025_2版
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夜中に、はっと目が覚めた。すぐにベッドから起き出光が部屋の片隅にまぶしく広がった。してリビングへ降り、パソコンの電源をつける。画面の私は、ヨーロッパのあるサッカーチームのファン。特にエースストライカーのA選手が大好き。ちょうど今頃、キしながら試合結果が分かるサイトをクリックした。向こうでやっている決勝の試合が終わったはず。ドキド「やった、勝った。A選手、ゴール決めてる。」思わず声が出てしまった。大声出したら家族が起きちゃう。そっと一人でガッツポーズ。ンサイトにアクセスした。画面には、「おめでとう」のみんなもう知ってるかな。いつものように日本のファ文字があふれてる。みんな喜んでる。うれしくて胸が一杯になった。私もすぐに「おめでとう」と書き込んで続「A選手やったね。ずっと不調で心配だったよ。シューけた。トシーンが見たい。」すると、すぐに誰かが返事をくれた。「それなら、観客席で撮影してくれた人のが見られるよ。ほら、ここに。」「Aのインタビューが来てる。翻訳も付けてくれてる。感動するよ。」くれたサイトを次々に見に行った。画面が言葉で埋め尽くされていく。私は夢中で教えて学校でもサッカーの話をするけど、ヨーロッパサッカーのファンは男子が多い。私がA選手をかっこいいよ寂しかったけど、今は違う。ネットにアクセスすれば、ね、って言っても女子同士ではあんまり盛り上がらない。ファンの仲間が一杯。もちろん顔も知らない人たちだけど。今この瞬間、遠くの誰かが私と同じ感動を味わってぐ朝。続きはまた今夜にしよう。る。なんか不思議、そしてうれしい。気が付くともうす今日は部活のミーティングが長かった。家へ帰ると、「ちょっと待ってて。」食事を用意して待っていた母に、と言って、パソコンに向かった。優勝後のインタビューとか、もっと詳しく読めるかな。楽しみ。「Aは最低の選手。あのゴール前はファールだよ、ずるいやつ。」開いた画面から飛び込んできた言葉に、胸がどきっとした。何、これ。「人気があるから優遇されてるんだろ。大して才能ないのにスター気取りだからな。」ひどい言葉が続いてる。読み進むうちに顔が火照ってくるのが分かった。「負け惜しみなんて最低。悔しかったら、そっちもゴーすると、また次々に反応があった。ル決めたら。」「向こうの新聞にも、Aのプレイが荒いって、批判が出てる。お前、英語読めないだろ。」「Aのファンなんて、サッカー知らないやつばっかり。ゴールシーンしか見てないんだな。」「Aは、わがまま振りがチームメイトからも嫌われてるんだよ。」く。でも絶対負けられない。必死で反論する私の言葉も、段々エスカレートしてい「加奈子、いい加減にしなさい。食事はどうするの。」母の怒った声。はっと気付いて時計を見た。もう一時間もたってる。「加奈ちゃん、パソコンは時間を決めてやる約束よ。」ずっと待たされていた母は不機嫌そうだ。って。」「ごめんごめん。ちょっと調べてたらつい長くなっちゃ「そうなの。なんだかこわい顔してたわよ。加奈ちゃん、こっちに顔を向けて話しなさい。」「はあい、分かりました。ちゃんと時間守ります。お母さんの御飯おいしいよね。」そう言いながらも、私の頭はA選手へのあのひどいコメントのことで一杯だった。「まったく調子いいんだから。でもね、ほんとかどうか目を見れば分かるのよ。」私は思わず顔を上げて母を見つめた。その表情がおかしかったのか、母がぷっと吹き出した。つられて私も笑った。急におなかがすいてきちゃった。食事の後、サイトがどうなっているか気になって、恐る恐るパソコンを開いてみた。「ここにA選手の悪口を書く人もマナー違反だけど、いして恥ずかしいです。中傷を無視できない人はここにちいち反応して、ひどい言葉を向けてる人、ファンと来ないで。」ええーっ。なんで私が非難されるの。A選手を必死でかばってるのに。「A選手の悪口を書かれて黙っていろって言うんですか。こんなこと書かれたら、見た人がA選手のことを誤解してしまうよ。」「あなたのひどい言葉も見られてます。読んだ人は、A選手のファンはそういう感情的な人たちだって思っちゃいますよ。中傷する人たちと同じレベルで争わないで。」ドを打つ手が震えた。なんで私が責められるのか全然分からない。キーボー「だって悪いのは悪口書いてくる人でしょ。ほっとけって言うんですか。」いよ。」「挑発に乗っちゃ駄目。一緒に中傷し合ったらきりがな優勝を喜び合った仲間なのに。遠くのみんなとつながってるって、今朝はあんなに実感できたのに。何だか突然真っ暗な世界に一人突き落とされたみたいだ。新した。もう見たくない。これで最後。と、もう一度画面を更「まあみんな、そんなきつい言い方するなよ。ネットのコミュニケーションって難しいよな。自分もどうしたてときも。」らいいかなって、悩むことよくある。失敗したなーっ「匿名だからこそ、あなたが書いた言葉の向こうにいる人々の顔を思い浮かべてみて。」面から目を離すと椅子の背にもたれて考えた。えっ、顔。思わず私はもう一度読み直した。そして画そうだ……。駄目だなあ。何で字面だけにとらわれていたんだろう。一番大事なことを忘れていた。コミュニケーションしているつもりだったけど。私は立ち上がり、リビングの窓を大きく開け、思いっきり外の空気を吸った。「加奈ちゃん。調べ物はもう終わったの。」「調べ物じゃないの。すごいこと発見しちゃった。」台所から母の声がする。私は、明るい声で母に言った。文部科学省「私たちの道徳」中学校言葉の向こうに2727第3部第3部いじめをしない、させない、許さないための意識の醸成互いの個性の理解規範意識の醸成保護者プログラム望ましい人間関係の構築いじめ問題への対応事例教員研修プログラム地域プログラムいじめをしない、させない、許さないための意識の醸成                        (1) 自己存在感の感受 幸せな世の中にしていくために、自分に何ができるかを考え、そのことを友達に伝え、その考えが認められるようにする。(2) 共感的な人間関係の育成 自分と異なる思いや考え、価値観を大切にし、互いに理解しようとする。(3) 自己決定の場の提供 それぞれの「幸せ」を踏まえ、幸せな世の中にしていくために、「自分に何ができるか」を考え、伝える場を設定する。(4) 安全・安心な風土の醸成 一人一人が考えたことを大切にしながら話合いを進めるよう確認し、生徒が安心して学習に取り組むことができるようにする。教材文資料等生徒指導の実践上の視点○ ICT を用いた板書例

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